Japan Society for the Promotion of Science:Grants-in-Aid for Scientific Research Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
Date (from‐to) : 2019/04 -2023/03
Author : 今井 悠介
17世紀初頭-18世紀半ばにかけて成立した学問である「存在論(オントロギアOntologia)」の生成、およびその展開を分析することで、「あらゆる存在者に備わる一般的性質」を探求するこの学問の可能性と射程を明らかにすることが本研究の目的であるが、本年度の成果は以下の通りである。
1)ヴォルフの「存在論(Ontologia)」における主要著作である、『第一哲学あるいは存在論(Philosophia Prima sive Ontologia)』(1730年)のテキストを、初版のラテン語原典に基づいて検討した。特に、「プロレゴメナ」における明晰判明性概念や、原理である矛盾律の導入における思惟への依拠など、初期存在論と比べデカルト主義的と思われる要素を中心に検討を加えた。対比項として念頭に置いたのは、初期存在論の中心的哲学者の一人であるクラウベルクの主著『オントソフィア』である。成果として、ヴォルフでは「知解可能なもの」や「存在者」などの基礎概念に先立って、矛盾律や充足理由律などの原理がまず論証されるが、この構造はティンプラーやアルステッド、クラウベルクら初期存在論と全く異なっていること、またそれが、ヴォルフが展開した旧来のスコラ的「存在論」批判と密接に結びついていることが明らかになった。また、原理の論証に「経験」が用いられるが、その「経験」はクラウベルク『オントソフィア』初版で用いられる経験概念と異なっていることが明らかになった。他方で明晰判明性概念に関しては、基本的な方向性としては『オントソフィア』第2版以降のものに合致していることが確認できた。
2)ヴォルフの「存在論」に関して、J. EcoleやJ-P. Paccioniらの先行研究を批判的に検討し整理した。ヴォルフの「経験」概念に関してはチルンハウスとライプニッツの影響を踏まえて考慮する必要があるという課題が浮き彫りになった。