新規のヒアリング調査ができなかったため、既存のデータ(アンケート調査結果)を用いた計量分析を実施した。海外進出に際して重視されるマーケティング関連の知識は経験知とされ、事前調査は困難とみなされてきた背景がある。しかし、中でも重要とされる「現地消費者の顧客満足がどのような要因で規定されているのか」に関し、(進出後ではなく)事前にどの程度把握できるか――実証分析を行った。具体的には、日本・インド・ベトナムの3カ国で共通のモデルに即して分析し、比較検討した。この結果、日本と他の2カ国(新興国)という対比以上に、新興国間(インド・ベトナム間)に大きな違いが発見され、先進国対新興国という図式が成立しないことなどが確認された。
その他のファインディングは以下の通りである。①CSに影響を与える観測変数群は「(a)体験全体としての良さ」「(b)価格コストに対する納得感」「(c)事前予想と比較した際の良さもしくは“ずれ”」の3因子に集約することが可能と推測される、②上記(a)~(c)3グループ(3因子)は3国ともCSへの影響という意味において、(a)のインパクトが最も大きいことが共通している。標準化係数で比較しても大きな違いはない。一方、(b), (c)に関しては、3国間に比較的明確な違いが観察される、③ (b)の知覚価格コストのCSへの影響は、インドで最大で、日本で最少となる。また、(c)の事前予想の影響は、日本とベトナムで(a)体験全体評価の半分程度の影響が確認される一方、インドでは有意にマイナスである。
以上のような分析結果を踏まえ、インプリケーションを考察した。この結果を論文(コンファレンス・ペーパー)にまとめ、Association for Japan Business Studies (AJBS) の大会で学会報告を実施した。
最終年度の成果は以下3点にまとめられる。第1に、前年度に提示した「消費者理解フレームワーク」に関して、インドのビジネスコンサルタント、及び日本の実務家(海外ビジネスを専門とするコンサルタント、及び新興国進出を果たしている企業の海外部門長)へのヒアリング・アンケート調査によって有効性を確認した点である。この結果、日本の実務家に関しては、提示したフレームワークの有効性を確認することができた。すなわち、Hofstedeが提示するような基本的な価値観を理解する以上に、当該の対消費者サービスに即して顧客満足・ロイヤルティ状況を理解することの重要性が確認された。一方、インドのコンサルタントは意見が多岐にわたり、コンセンサスを得ることができなかった。今後、論点を絞って再調査が必要と思われる。
第2に、提示したフレームワークの汎用性に関する検討を実施し、インド以外にも同分野のサービスで有効性を持つことが確認された。すなわち、ベトナムの外食サービス(Quick Service Restaurant及びカフェ)に関して、インドで実施したと同様の調査・分析を実行し、マーケティング方針に関する示唆を導くことができた。ただ、提示したフレームワークは「日本サービスへの期待感」を含む必要性があり、既存サービスだけを対象とすることには限界があることも認識した。さらに、同分野サービス以外にフレームワークを拡張するには多くの点で修正が必要であり、その具体的内容に関しては今後の課題として残った。
最後に、消費者理解は新興国進出の意思決定時点から始まり、組織的課題を内包している点がインタビュー調査から浮上した。この点を整理することにより、来期以降の科研費研究課題としてまとめることができた(2019年4月に基盤研究Cとして採択)。