Japan Society for the Promotion of Science:Grants-in-Aid for Scientific Research
Date (from‐to) : 2020/04 -2023/03
Author : 松本 和也; 西村 将洋; 山本 亮介; 若松 伸哉; 五味渕 典嗣; 渋谷 豊
2年目にあたる今年度は、昨年度までの調査・分析の成果をベースにしつつ、メンバー各自の問題関心を掘り下げるかたちで研究を進めた。
チーム全体では、浜井和史先生に「戦場の落穂拾い――戦後日本の海外戦没者処理問題の展開とその特質」と題したご講演を頂き、太平洋戦争の問題が現在に至るまで続いていること、関連する文学者や言説、痕跡‐レトリックについての原理的な問題等について認識を新たにすると同時に、ディスカッションで意見交換を行うことができた。また、歴史学からの知見に鑑み、文学を研究することの意義やアプローチについて、再考する機会となった。
研究メンバー間では、以下の3つの柱から研究を進めた。
第1に、内地の動向に関しては、昭和10年代における〈地方(文化)〉についてのリサーチを進め、考察を論文にまとめた。また、政府の「輿論指導方針」をはじめ、メディア統制・管理の政策的な展開を確認し、谷崎潤一郎の『源氏物語』現代語訳を同時代の国際的潮流と結びつけて分析した。第2に、対外文化工作とでも称すべき領域では、昭和10年代における日本文学の対外翻訳紹介や日本における外国文学受容の調査・考察などを進めた。仏文学受容については、戦時下に企画された筑摩書房『ヴァレリー全集』について検討すると同時に、そのベースとなる同時代のフランス語教育・研究の実態について調査した。英文学受容については、日本における英文学・英語学の動向や言説を、古典文学(『雨月物語』中、「吉備津の釜」)を英訳した英語学者佐々木高政を軸とした検証を進めた。第3に、アジア太平洋戦争期における外地との関係に関して、台湾・朝鮮・満洲で刊行された日本語メディアに掲載された文学テクストを精査し、「内地」の言説状況との相同性と差異について検討を行った。また、高見順、火野葦平を軸に、文化交錯に関わった文学者の書いた作品を分析し、論文化した。