Japan Society for the Promotion of Science:Grants-in-Aid for Scientific Research Grant-in-Aid for JSPS Fellows
Date (from‐to) : 2021/04 -2024/03
Author : 田中 美彩都
本研究課題の目的は、近代朝鮮の養子制度を題材として、当該社会における家族の実像と「伝統」の創出過程を具体的に描出するとともに、その「伝統」が後の韓国社会に与えた影響を明らかにすることである。分析にあたってはさしあたりその対象を、①祖先祭祀の継承のためにおこなわれる「儒教的養子制度」と、②かならずしも祖先祭祀の継承を目的としない非「儒教的養子制度」とに大別した。本年度は、①・②に関して、以下の通り研究を遂行した。
①植民地化前後における「儒教的養子制度」の法制やその実践上の変化について、学会で報告し、その成果の一部を論文として発表した。また、家父長制の枠組みからその変化の特徴を検討し、研究報告を行った。さらに植民地政府によって導入された日本由来の氏制度・婿養子制度が、朝鮮社会の「儒教的養子制度」をめぐる価値観の形成にいかに作用したのかについても、学会で報告した。
②植民地政府が祖先祭祀の継承権をもたないと把握した朝鮮の養子の一形態である「収養子」について、予備的考察を行った。具体的には、前近代を対象とした研究でこれまで論じられてきた「収養子」の意義の変遷を整理したうえで、植民地化の直前の時期に実施された慣習調査で把握された「収養子」の意味との異同を確認し、学会にて報告した。
上記①・②の作業を通じて、社会の儒教化が進行した前近代朝鮮(17, 18世紀)においても曖昧であった「儒教的養子制度」と非「儒教的養子制度」の境目が、近代に施行された各種の政策により徐々に明確化する過程について、見通しを得た。