研究者総覧

吉永 淳 (ヨシナガ ジュン)

  • 生命科学部生命科学科 教授
  • ライフイノベーション研究所 研究員
Last Updated :2024/04/23

研究者情報

学位

  • 博士(保健学)(東京大学)

科研費研究者番号

  • 70222396

J-Global ID

研究キーワード

  • 鉛   フタル酸エステル   環境   水銀   ICP-MS   精液所見   骨   汚染源同定   ピレスロイド系殺虫剤   バイオマーカー   生体試料   乳歯   パラベン   肛門性器間距離   同位体希釈分析   安定同位体分析   安定同位体比   イソフラボン   胎児期曝露   食物   精液指標   炭素・窒素安定同位体比   毛髪   

研究分野

  • ライフサイエンス / 衛生学、公衆衛生学分野:実験系を含まない
  • ライフサイエンス / 衛生学、公衆衛生学分野:実験系を含む
  • 環境・農学 / 化学物質影響
  • 環境・農学 / 環境影響評価

経歴

  • 1999年04月 - 2016年03月  東京大学大学院・新領域創成科学研究科准教授
  • 1997年10月 - 1999年03月  国立環境研究所地域環境研究グループ主任研究員
  • 1990年04月 - 1997年09月  国立環境研究所化学環境部研究員/主任研究員

学歴

  •         - 1990年03月   東京大学   医学系研究科   保健学専攻博士課程
  •         - 1989年03月   東京大学   医学系研究科   保健学専攻修士課程
  •         - 1987年03月   東京大学   医学部   保健学科

研究活動情報

論文

書籍

  • Biomarkers in Disease: Methods, Discoveries and Applications. Biomarkers in Nutrition
    Jun Yoshinaga (担当:分担執筆範囲:Urinary Arsenic as a Biomarker: Speciation Analysis for the Assessment of Dietary Exposure)SplingerLink 2022年
  • プラズマ分光法による環境試料の分析
    (担当:共著範囲:ICP-AESによる生体試料の分析;ICP-MSによる生体試料の分析)アグネ技術センター 2020年02月
  • Biodemography of fertility in Japan
    Shoko Konishi; Emi Tamaki; Jun Yoshinaga (担当:共著範囲:Exposure to Chemical Substances as a Potential Determinant Factor of Human Fertility)Springer 2018年01月 63 43-57
  • 毒性の科学:分子・細胞から人間集団まで
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:鉛(pp. 132-135))東京大学出版会 2014年
  • 同位体環境分析
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:鉛同位体分析による人体汚染源の解析(pp. 273-280))丸善 2013年
  • 化学実験における事故例と安全
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:有害性物質)オーム社 2013年
  • 東叡山寛永寺 徳川将軍家御裏方霊廟
    米田穣; 吉永淳; 柿沼由佳理; 内藤裕一 (担当:共著範囲:第六節 寛永寺出土徳川将軍親族遺体における鉛濃度測定)吉川弘文館 2012年03月
  • 環境分析ガイドブック
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:)丸善 2011年
  • すっきりわかる!くらしの中の化学物質大事典
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:)くもん出版 2011年
  • シリーズ〈環境世界〉2. 環境システム学の創る世界
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:現代の化学物質による環境問題)朝倉書店 2011年
  • 人間の生態学
    吉永淳 (担当:共著範囲:9章 生体指標から見た人間の生態,13章 食と人間の安定同位体生態学)朝倉書店 2011年
  • 分析化学便覧第六版
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:)丸善 2011年
  • 改訂版 分子予防環境医学
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:III-9 重金属 c. 鉛 (pp. 655-661))本の泉社 2010年
  • 化学分析・試験に役立つ標準物質活用ガイド
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:)丸善 2009年
  • 実験化学講座20-2 環境化学
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:人体可給態金属の分析(pp. 363-367);毛髪一本の分析による水銀摂取量の経時変化の解析 (pp. 457-462))丸善 2007年
  • 現場で役立つ環境分析の基礎
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:第1,2,8章)オーム社 2007年
  • 実験化学講座30化学物質の安全管理
    吉永淳 丸善 2006年
  • 化学物質・プラント 事故事例ハンドブック
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:)丸善 2006年
  • 水の事典
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:飲料水中の化学物質と健康(pp. 513-531))朝倉書店 2004年
  • 危険物の事典
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:)朝倉書店 2004年
  • Organometallic Compounds in the Environment 2nd edition
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:Organolead Compounds in the Environment)Wiley 2003年
  • 分析化学便覧第五版
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:)丸善 2002年
  • くらしの中の知らない化学物質9 印刷物・文房具
    吉永淳 (担当:共著範囲:)くもん出版 2002年
  • 環境化学物質の最新計測技術
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:環境水(河川水、湖沼、地下水、海水)1. 重金属)リアライズ社 2001年
  • 化学安全ハンドブック
    吉永淳 (担当:その他範囲:)丸善 2001年
  • 誘導結合プラズマ質量分析法
    吉永淳 (担当:その他範囲:微量,超微量元素分析のためのマイクロ波試料調製の現状(pp. 34-59))2000年
  • 環境ホルモンのモニタリング技術
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:ICP-MS(pp. 40-49))シーエムシー 1999年
  • The Use of Matrix Reference Materials in Environmental Analytical Processes
    K. Okamoto; J. Yoshinaga (担当:分担執筆範囲:Proper use of reference materials for elemental speciation studies)Royal Society of Chemistry 1999年
  • Handbook of Human Toxicology
    Jun Yoshinaga (担当:分担執筆範囲:Methods in Toxicology (pp. 5-32))CRC Press 1997年
  • 新しい排水基準とその分析法
    吉永淳 (担当:分担執筆範囲:pp.83-84)環境化学研究会 1993年

MISC

  • 少子高齢化、人口減少とその環境影響
    吉永淳 保健の科学 65 (12) 796 -798 2023年12月 [招待有り]
  • 魚食の功罪―諸外国でのリスク-ベネフィット分析―
    吉永淳 保健の科学 63 (5) 323 -329 2021年05月 [招待有り]
  • Human Biomonitoring とは
    吉永淳 学術の動向 25 (11) 69 -73 2020年11月 [招待有り]
  • 吉永 淳; 山川 茜 ぶんせき 2016 (10) 437 -441 2016年10月
  • 放射性炭素同位体分析による大気汚染物質の起源解析
    吉永淳 創成 25 10 -10 2015年
  • 吉永淳 コスメトロジー研究報告 23 173 -175 2015年
  • 胎児期ピレスロイド系殺虫剤曝露と幼児期の発達
    吉永 淳; Zhang Jie; 久田 文; 加藤 貴彦; 白石 寛明; 下平 和久; 岡井 崇; 白川 美也子; 野田 由美子; 小峰 洋子; 有木 永子; 加藤 進昌 環境ホルモン学会研究発表会要旨集 17回 61 -61 2014年12月
  • ビスフェノールAによる卵形成への影響
    吉永淳 医学のあゆみ 249 181 -182 2014年 [招待有り]
  • 大正・昭和期の鉛汚染-含鉛おしろいの影響―
    吉永淳 Beauty Science 3 53 -55 2014年 [招待有り]
  • 水本賀文; 鈴木弥生; 早田季美恵; 今井瑞葉; 村上充剛; 吉永淳 産婦人科の実際 62 (2) 221 -226 2013年
  • 男児外生殖器疾患患者由来細胞におけるBPAの細胞応答性と遺伝子多型解析に関する研究
    曽根秀子; 秦咸陽; 吉永淳 Endocrine Disruptor NEWS LETTER 15 (4) 6 -6 2013年
  • コメ中無機ヒ素の健康リスクに関する研究
    吉永淳 公益財団法人 飯島藤十郎記念食品科学振興財団 平成24年度年報 28 186 -189 2012年
  • 吉永 淳; 内田 昌男; 柴田 康行 ぶんせき (436) 199 -205 2011年04月 [査読有り][招待有り]
  • 環境と健康
    吉永淳 Kokutai 月刊医師国試対策 2010 (7) 84 -87 2010年07月 [招待有り]
  • フタル酸エステル類のヒト胎児期曝露評価および健康影響評価
    吉永淳 Endocrine Disrupter NEWS LETTER 11 (4) 7 -7 2009年 [招待有り]
  • 江戸時代鉛汚染に関する研究―発掘人骨・遺物の化学分析による汚染原因と影響の解明に向けて―
    吉永淳 公益財団法人三菱財団 第40回2009三菱財団研究・事業報告書 85 -85 2009年
  • Radiocarbon analysis of aldehydes in indoor air for source apportionment
    M. Kuramata; N. Shinohara; J. Yoshinaga; M. Yoneda; H. Seyama; M. Uchida; Y. Shibata 第10回AMSシンポジウム 307 -310 2008年
  • 還元気化-金アマルガム-原子吸光分析法を用いた頭髪水銀分析
    吉永淳; 大野佐代子; 荒川千夏子 Hitachi Scientific Instrument News (50) 7 -10 2007年 [招待有り]
  • 吉永 淳; 柴田 康行; 米田 穣 住宅総合研究財団研究論文集 33 (0) 347 -356 2007年
  • 日本人の土壌摂食量
    吉永淳 リスクセンター四季報 3 (3/4) 5 -7 2006年 [招待有り]
  • 田中敦; 瀬山春彦; 西川雅高; 吉永淳; 田尾博明; 中里哲也; 山崎章弘 環境保全研究成果集(CD-ROM) 2005 ROMBUNNO.58 2005年
  • Mercury in human hair by discrete sampling ICP-MS
    K. Ohsawa; J. Yoshinaga Agilent ICP-MS Journal 24 2 -2 2005年 [招待有り]
  • 土壌汚染の分析法
    吉永淳 ケミカルエンジニアリング 49 336 -341 2004年 [招待有り]
  • 阿部 芳廣; 吉永 淳 ぶんせき (349) 51 -52 2004年01月 [招待有り]
  • 吉永 淳 ぶんせき (348) 703 -703 2003年12月 [招待有り]
  • 骨の化学分析から見た縄文時代人・弥生時代人の食生活
    米田穣; 吉永淳 日本人と日本文化 15 27 -27 2001年
  • 吉永 淳 人間と生活環境 6 (2) 92 -97 1999年06月 [招待有り]
  • 吉永 淳 水環境学会誌 = Journal of Japan Society on Water Environment 22 (5) 330 -335 1999年05月 [招待有り]
  • 吉永 淳 ぶんせき 292 332 -333 1999年04月 [招待有り]
  • 大石 公之助; 吉永 淳; 白崎 俊浩; 奥本 豊治 旭川工業高等専門学校研究報文 34 219 -229 1997年03月 [査読有り]
  • 吉永 淳 ぶんせき 263 48 -49 1996年11月 [招待有り]
  • MIP-MSを用いた生物試料中のセレンの同位体希釈分析
    吉永淳; 森田昌敏 Hitachi Scientific Instrument News 38 11 -13 1995年 [招待有り]
  • 誘導結合プラズマ発光分析法およびICP質量分析法
    吉永淳 日本臨床 54 202 -206 1995年 [招待有り]
  • 吉永 淳 化学と工業 = Chemistry and chemical industry 47 (7) 912 -913 1994年07月 [招待有り]
  • Biological monitoring of trace elements with human bone
    T. Suzuki; J. Yoshinaga Proceedings of 2nd Asia-Pacific Symposium on Environmental and Occupational Health, 25 -32 1994年
  • Chieko Suzuki; Jun Yoshinaga; Masatoshi Morita ANALYTICAL SCIENCES 7 997 -1000 1991年
  • 微量元素と健康-その摂取/曝露による人体への影響-
    吉永淳; 鈴木継美 食の科学 164 16 -22 1991年 [招待有り]
  • 安定同位体分析による人間―環境系の理解
    吉永淳 医学のあゆみ 153 311 -311 1990年 [招待有り]

共同研究・競争的資金等の研究課題

  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2016年04月 -2019年03月 
    代表者 : 渡辺 知保; 稲岡 司; 吉永 淳; 小西 祥子
     
    東南アジア・東アジア地域では,地下水のひ素による汚染が報告されており,地域によっては深刻な健康被害が生じている.本研究では,周産期のひ素への曝露がテロメア長に与える影響について検討した.ミャンマでひ素汚染が報告された地域に居住する母子400組の参加を得て,母親の尿中ひ素,カドミウム,鉛のレベルを測定するとともに,臍帯血からDNAを抽出し,テロメアの相対的な長さ(TL)を測定した結果,ひ素とカドミウムはそれぞれTLとは負の有意な相関を示すことを見出した.
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2010年 -2012年 
    代表者 : 吉永 淳; 林 祐太郎; 小島 祥敬; 水本 水本; 徳岡 晋
     
    日常生活の中で頻繁に曝露が起こっている化学物質による、男性生殖器および生殖機能への影響を、ヒトを対象として調べた。環境レベルのフタル酸ジエチルヘキシルへの胎児期曝露により、出生男児の肛門性器間距離が有意に短縮すること、ピレスロイド系殺虫剤への環境レベルの曝露により、成人男性の精子運動率が低下することを見出した。どちらも一般環境中のレベルの曝露によって、テストステロン作用阻害や産生抑制がおこっていることを示唆するものであった。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2008年 -2012年 
    代表者 : 渡辺 知保; 有薗 幸司; 吉永 淳; 梅崎 昌裕; 関山 牧子; 新村 哲夫; 中崎 美峰子; 古澤 華
     
    変化の著しいアジア農村部(インドネシア西ジャワ州)において,健康と持続可能性に関する調査を行なった.自然・社会的条件が異なる複数の集落を対象として,人口・土地利用,食物摂取と身体活動,化学物質への曝露という3つの点に関して調べた結果,比較的小さな自然・社会的条件の違いがライフ・スタイルの大きな差につながる可能性があることを見いだした.また現状では懸念すべき化学物質曝露は見いだせないが,継続的な監視も必要である事が示唆された.
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2005年 -2007年 
    代表者 : 渡辺 知保; 関山 牧子; 吉永 淳; 新村 哲夫
     
    多くの開発途上国において,産業の急速な発展と人口増加は化学物質による環境汚染をもたらしており,中でも水質汚染はもっとも緊急に解決すべき問題の一つとなっている.途上国での環境汚染は,寄生虫などの感染症や低栄養と複合して,先進国とは量的・質的に異なるリスクをもたらすことが考えられる.本研究は,途上国農村部において,学童を対象とした包括的で縦断的な調査を行い,農薬・金属類などの有害化学物質による軽度の水質汚染が小児の発達・成長に及ぼす健康リスクについて,定量的情報を得ることを目的とした.報告書執筆時点において未解析のデータもあるが,以下のような知見を得た. ・対象としたインドネシア西ジャワ州のチタルム川中上流域農村部(4集落)の学童においても有機リン系農薬への曝露があった.しかし,そのレベルは日本(富山市郊外)学童よりも著しく低く,検出率レベルでも欧米の小児集団よりも低いことが示唆された.少なくとも,急性の健康被害のおそれはほとんどないものと思われた. ・DDTは同国でも使用が禁止されている(一部地域でのマラリア駆除に限定した使用を除く)が,母乳中・魚肉中などから親化合物が検出され,周辺環境中に残留していて最近の曝露が起きていることが示唆された. ・2集落の学童を対象として,インドネシアで標準化されたversionのWISC(Wisconsin小児用知能スケール)を実施したところ,スコアは85程度であり,"正常域"の下限に近かった.既に得られている縦断的な有機リン曝露データとの関連についての解析を進めると同時に,研究期間終了後も同種のデータを収集し,その意義を明らかにしていきたいと考えている.
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2002年 -2003年 
    代表者 : 渡辺 知保; 吉永 淳; 今井 秀樹; 吉田 稔
     
    初年度の結果を踏まえ,以下の2つの感受性要因-環境要因系モデルについて検討した. (1)メタロチオネイン欠損(MTKO)-水銀モデル:C57BLマウスおよびこれを野生型とするMTKOマウスを周生期に0.5mg/m^3の水銀蒸気(Hg^0)に連日6時間ずつ曝露し,出生後の行動機能を評価した.MTKOではオープンフィールド活動性の低下を認めた。受動回避試験およびモリス水迷路(空間学習機能試験)では,メスのMTKOマウスのみ,Hg^0曝露群の成績が対照群より劣っていた.曝露群における脳内Hg濃度はピーク時期で1ppm未満であり,これらの行動影響が比較的軽度の曝露で生じていることが示唆された. (2)性ホルモン-甲状腺ホルモン撹乱モデル:胎生期にジエチルスチルベストロール(DES)処理し性ホルモン環境を攪乱した動物で行動異常が認められたことを受けて,ここに甲状腺ホルモン撹乱を加えた系について検討する予定であったが,甲状腺ホルモン撹乱の影響のみ検討を行なった。WI系雄性ラット(10週齢)に4週間0.03%の濃度のメチルチオウラシル(MTU)溶液を飲料水として自由に摂取させた.4週目に賭殺し、血漿中の甲状腺ホルモン(T3,T4)およびコルチコステロン(CORT)の各濃度をラジオイムノアッセイ法にて定量した.その結果、副腎重量,血漿中甲状腺ホルモン濃度指標はいずれもMTU投与群において有意に低値であった。血漿中,CORT濃度においてはMTU投与群と対照群との間に有意差はみられなかった。飲料水にMTUを混和することによって甲状腺ホルモン系低機能モデルラットを作成できることがわかった.以上,本研究では3つのモデルを検討し,一般毒性が生じないような負荷で行動影響を惹き起こすことができたが,多動かつ学習障害を示すようなモデルの確立には至っていない.今後,未検討の項目についても詰めていきたいと考えている.
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2000年 -2002年 
    代表者 : 渡辺 知保; 吉永 淳; 榎本 秀一; 佐藤 洋; 中澤 港
     
    砒素による地下水の汚染はアジアを含む世界各地に存在し,中毒危険人口は数千万人という大規模なものである.砒素の慢性曝露による影響については,これまで皮膚症状やがんなどを中心として,主に成人での影響が調べられてきている.発達期は多くの化学物質に対して高感受性を示すが,砒素が発達に及ぼす影響については検討が極めて少ない.そこで,本研究では母体の砒素曝露が胎仔・出生仔に及ぼす影響について,マウスを用いて2つのアプローチより検討した.1)砒素とセレンの母体-胎仔系における相互作用.両者を過剰量で投与すると,相互に毒性を減弱することが知られているが,現実においてより重要なセレン欠乏と砒素毒性との関連については知見がわずかである.C57BL妊娠マウスに砒素(亜ヒ酸)を妊娠7-16日目の間,経口投与し,妊娠17日目に解剖して組織のセレン濃度,セレン酵素活性を調べた.また,セレン欠乏状態とした場合にこれらの影響がどのように修飾されるかを検討した.その結果,砒素投与により肝のセレンが減少すること,セレン欠乏条件下では充足条件下に比較して母仔ともに肝・脳への砒素の蓄積が顕著に増加することを認めた.また,胎仔組織において,セレン充足条件下では砒素によって活性が増加したチオレドキシンレダクターゼ(セレン酵素の一つ)が,セレン欠乏条件では逆に低下した.このようなセレン栄養条件による影響の違いは母体には認められず,胎仔が栄養条件による修飾を受けやすいことが示された.2)母体砒素曝露が出生仔の行動機能に及ぼす影響:妊娠マウスを10あるいは100ppmの砒素を添加した水で飼育し,出生仔の運動機能の発達を評価したところ,一部の機能に発達の遅れを認めた.離乳期の影響は軽微であったが,生後8週齢においてもオープンフィールド行動の異常を認めた.以上より,在胎期における砒素曝露が行動機能に影響を及ぼすことが示された.
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1999年 -1999年 
    代表者 : 米田 穣; 吉永 淳
     
    一昨年度は北海道出土人骨資料(縄文時代・続縄文時代)を中心に、昨年度は東北・関東出土の弥生人骨および縄文人骨の分析中心に研究を遂行してた結果、縄文時代集団および続縄文時代集団が、 C_3植物食物群と海産物食物群の間で直線的に分布するのに対し、弥生時代集団では炭素同位体比、窒素同位体比ともに個体間の変動が大きい傾向が示された。タンパク質資源としては、海産物とC_3植物が重要であることが示されたが、関東の大浦山および安房神社遺跡の2集団では、通常のC_3植物よりも窒素の値が高い、陸産の食物群が利用されていた可能性が示唆された。候補としては水稲あるいは淡水魚類が考えられるが、水稲のタンパク質を単離し分析することは技術上、容易ではない。 そこで、海洋生物と陸上生物の間に存在する放射性炭素年代の相違を利用する新たな方法について検討を開始した。放射性炭素同位体(^<14>C)の存在は地球上では必ずしも一様ではなく、一般的に海洋の炭素に由来する物質は同時に存在した大気二酸化炭素よりも、見かけ上の年代値でおよそ400年古い値を示すことが知られている。これを、放射性炭素年代における海洋リザーバー効果と呼ぶ。日本列島が位置する北太平洋においては、海洋深層から2000yBPという古い海水が湧昇しており、平均海水より古い年代値が示される可能性が指摘されている。この大きな相違が遺跡から出土した動物骨において一応に見られれば、海生哺乳類・陸生哺乳類・人類集団の3種の比較から、先史人類集団の海産物利用がより定量的に示唆される可能性がある。現在までに北海道の遺跡で確認したところ、エゾシカとオットセイの見かけ上の放射性炭素年代は、数百年の補正値がかなり一様に存在することが確認された。今後、人骨試料の年代測定値および安定同位体比と比較することで、海産物の寄与率を定量的に復元する計画である。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1998年 -1999年 
    代表者 : 吉永 淳
     
    平成10年度に測定した日本人小児乳歯の鉛安定同位体比測定結果より詳細に検討するために、本年度は環境試料の鉛同位体比分析を行った。試料は天然由来鉛の摂取源と考えられる日本産の代表的な岩石(安山岩、花崗岩、玄武岩)、経気道摂取源として可能性のある一般廃棄物焼却灰、経口摂取源として重要な食物(国内23都道府県から収集した6日間の食事を混合、均一化したもの)である。その結果、これらの試料の鉛同位体比(以下順に207/206、208/206)は、岩石が0.843〜0.847、2.093〜2.103、焼却灰が0.862〜0.869、2.105〜2.112、食物が0.856、2.087であり、小児乳歯(n=17)の平均同位体比0.866、2.111に最も近いのが焼却灰であった。ただし、焼却灰の同位体比は、報告されている一般大気の粉塵中の同位体比とほぼ一致しているため、焼却灰が直接の摂取源かどうかは明らかにならなかった。これらの各種環境試料の鉛同位体比の実測値、報告値と乳歯の同位体比を同じグラフ上にプロットすると、1980年代以前(本研究対象小児の誕生以前)に用いられていた有鉛ガソリンの摂取を示唆するものとなった。おそらく母親の骨に蓄積していたガソリン由来の鉛に子宮内で曝露していたことを示しているものと考えられた。以上の結果から、現代日本人小児の鉛摂取源として、これまで知られていた食物、大気以外にも、母親の骨由来のものも無視できない可能性が明らかとなった。現在日本の鉛環境汚染レベルは低いものの、神経系の形成・発達期である胎児期に、かつてガソリンによって大量曝露していた母親経由で曝露される鉛による影響について、今後詳細な研究が必要であることが示された。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1997年 -1997年 
    代表者 : 米田 穣; 吉永 淳
     
    今年度は、本格的な人骨試料の分析に先立ち、大学・博物館等に保管されているに人骨試料の調査・収集した。また大量の資料を迅速かつ高精度に測定するために、元素分析計と安定同位体比質量分析計の連結を実施した。 資料収集に関しては、東京大学総合研究博物館所蔵人骨資料より弥生時代に属する6遺跡22個体を採取し、これらを用いて前処理および分析方法の検討を実施した。また、九州大学社会比較社会文化研究科、東北大学医学部、札幌医科大学医学部収蔵の弥生時代人骨に関して保存状態等を調査し、管理責任者に来年度以降のサンプリング計画を申請している。先史時代人類集団によって消費されていたと考えられる食糧資源に関しては現生動植物試料の最終と予備的分析を開始した。食糧資源に関しては並行して文献データの収集・解析を実施した。現在ところ、肉類・魚類・穀物・堅果類・イモ類等に関してSr/Ca比、Ba/Ca比、Zn/Ca比による分類を実施した。その結果、肉類や穀物はZn/Ca比で、また一部の堅果類ではBa/Ca比で特徴があることが明らかになった。今後、生育環境の相違等による元素含有量への影響を引き続き検討する必要がある。 来年度の本格的な人骨試料な分析にむけ、元素分析計と安定同位体比質量分析計の連動を実施した。炭素ではδ^<13>Cでは±0.5‰、δ^<15>Nでは±1‰程度の再現性を実現しているが、より高精度化するために確度改善に調整が必要である。これによって安定同位体分析における分析時間の大幅な短縮と試料の微量化が期待される。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1995年 -1995年 
    代表者 : 吉永 淳
     
    プラズマイオン源質量分析法を用いた安定同位体希釈分析による、生体試料中微量元素の高精度・高確度分析手法の確立を行った。用いた装置は誘導結合アルゴンプラズマ質量分析装置(ICP-MS)、マイクロ波誘導窒素プラズマ質量分析装置(MIP-MS)である。試料としては微量元素濃度が既知の頭髪・血清・尿・臓器などの標準試料を用い、測定元素はICP-MSの場合、水銀・亜鉛・カドミウム・鉛、MIP-MSの場合はセレンである。それぞれの元素について、安定同位体組成を人工的に変えた安定同位体スパイクを購入し、硝酸に溶解してスパイク標準液を作製した。試料をテフロン製バイアル(7ml容)に適当量(固体試料の場合50-100mg、血清・尿の場合1ml)採取して精秤し、スパイク標準液を適当量添加してから、テフロン2重容器分解法により分解した。測定元素濃度が10-20ppbになるように希釈し(MIP-MSの場合100ppb)、亜鉛(68/66)、セレン(80/78)、カドミウム(114/112)、水銀(202/200)、および鉛(208/206)の安定同位体比を測定した。ICP-MS、MIP-MSによる同位体比測定精度はどの元素についてもおおむね0.2-0.5%であった。標準試料の分析結果は、どの元素についても保証値とよく一致したばかりでなく、平行分析の精度は1%以下であり、本分析法がきわめて高精度かつ高確度であることが判明した。一方で、高い濃度のイオウやケイ素をふくむ試料の場合、亜鉛、セレンなどにスペクトル干渉があり、精度の良い結果が得られないことも判明した。この場合、キレート抽出などによる干渉元素からの分離が必須であった。本法は、これまで安定同位体希釈分析が困難であったセレン・水銀などにも適用でき、しかも操作が簡便であるという点で、実用的価値の高い方法であると結論できる。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1993年 -1993年 
    代表者 : 吉永 淳
     
    人骨中の鉛安定同位体分析を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により測定し、鉛汚染源の推定をすることを目的として実験を行った。人骨中の鉛が非常に膨大なマトリクス(カルシウムおよびリン)の中に微量(カルシウムの約1/50,000、リンの約1/25,000)存在するために、同位体比の測定が困難で、分析手法そのものの検討が主になった。 高塩濃度の試料に弱いICP-MSでは、人骨試料を測定する場合、試料を約5000倍希釈する必要がある。この結果、多くの場合検液中鉛濃度は1ng/mL未満となり、正確な同位体比分析ができなくなるので、まず人骨から鉛の分離濃縮を検討した。キレート剤(APDC/DDC)を用い、キシレン中に液-液抽出したところ、用いた器具からの鉛の汚染が無視できない量であることが判明した。次いで汚染の可能性の低い方法として、検液の希釈倍率を下げ、濃い溶液を少量(50muL)だけICP-MSに導入するフローインジェクション(FI-ICP-MS)法を検討した。NISTの鉛標準試料(NIST981、982)を用いた検討では、10ng/mLの鉛溶液の同位体比測定精度は、207/206、208/206とも、2〜3%程度であり、通常の連続噴霧法に比べてやや劣る結果であった。しかし、この精度でも例えば古い鉱床であるオーストラリアのMt.Isaの鉛と比較的新しい日本の鉛との分別は可能であることが判明した。 この方法で1987〜1988年にかけて採取した日本人老人の肋骨の鉛同位体比分析を行った。208/206は2.118〜2.145の幅で変動し、207/206は0.873〜0.885の幅で変動した(いずれもN=4)。この骨中鉛の安定同位体比は、東京や北海道の大気粉塵中の鉛の値より、自動車排出粒子中のそれに近かったが、測定の精度の限界により、これ以上の考察は不可能であった。今後よりよい精度を目指す必要がある。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1992年 -1992年 
    代表者 : 本郷 哲郎; 吉永 淳
     
    昨年度までにパプアニューギニアに居住するギデラ族が食物として利用する動植物のうち81種について,タンパク質含量,δ^<13>C,δ^<15>Nからなるデータベースを作成し,あわせて彼らの毛髪δ^<13>C,δ^<15>Nを測定した。 本年度は、ギデラ族の食資源をδ値から、(1)C3植物(2)C3植物を餌とする哺乳類・鳥類(3)C4植物を餌とする哺乳類(4)淡水魚類(5)海産魚類,の5つの食物群に分け,毛髪同位体比の測定値を基に,食性分析を行った。当該研究で対象としたギデラ族の4村落のうち,食物摂取調査結果と食物δ値データベースから推定した毛髪δ値と実測δ値とのずれの大きかった1村落(内陸の村)をとりあげて詳細な検討を行った。この村の生態学的条件を考慮すると,食資源として上記(1),(2),(3)が想定できるので各々の寄与率を求める連立方程式を解いたところ,解がないことが判明した。この結果は,この村では上記3つ以外の食資源を利用していることを示したものと解釈できる。さらに検討を進めた結果,タンパク質摂取割合として,(1)から18%,(3)から40%,(4)の淡水魚類から42%の寄与があるとき,毛髪δ値の実測値になることがわかった。しかしながら1980-81年の同村を対象とした調査では,魚類の摂取はゼロであった。この内陸の村の例は,食性分析結果と食物摂取調査あるいはフィールドでの観察結果とは一致しない場合があることを示したものであると考えられた。一方で,食物摂取調査結果と毛髪δ値の実測値とが良い一致をみた村落もあることは,昨年度までの研究で示してきたところであり,内陸の村でみられた不一致の原因についてより一層の検討が必要となった。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1991年 -1991年 
    代表者 : 本郷 哲郎; 吉永 淳
     
    オセアニア地域で狩猟採集・焼畑農耕を生業とする人々(パプアニュ-ギニア、ギデラ族)の毛髪および彼らが食物として摂取している動植物の炭素・窒素安定同位体比から食性分析を行い、その結果とギデラ族について実際に行われた食物摂取調査結果とを比較した。摂取調査は4つの村で行われたが、昨年度までは予備的に1村についてのみ比較を行った。本年度は残りの3村も加えるとともに、より詳細な比較検討を行った。 具体的には、食物摂取調査の結果から各食物アイテムの摂取重量、栄養素分析の結果から各アイテムのタンパク質含量、本研究の結果から各アイテムの炭素・窒素安定同位体比(デルタ値)、の三つのデ-タを用い、ギデラ族の成人男子が1人1日当りに摂取するタンパク質全体のデルタ値を算出した。この値から彼らの毛髪デルタ値を推定した。この推定値と実測値とがどの程度一致するかを検討した。 その結果、両値の差は村により、炭素でー2.5〜+0.3、窒素でー2.6〜ー0.7パ-ミル(推定値ー実測値)であることが判明した。同位体を用いた食性分析の妥当性を検討する立場からこの差を評価する場合、(1)食物摂取調査の結果が、ギデラの人々の長期にわたる食性を代表していること、(2)食物・毛髪のデルタ値の実測値が、それぞれの代表値であること、(3)食物ー毛髪の間の同位体分別係数が報告値と同じであること、の3つを前提とすると、今回観察された推定値と実測値の差は必ずしも小さくない。例えば窒素のデルタ値の差がー2.6パ-ミルであった内陸の村でこの差を埋めるためには、草食動物、芋類といった、調査で把握されたものだけでなく、この村では通常とることができず、したがって調査でも把握されていない魚を、総タンパク質摂取量の30%分もとっているとしなければならない。むしろ上に挙げた前提(1)〜(3)について検討していかねばならない。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1989年 -1991年 
    代表者 : 柏崎 浩; 高坂 宏一; 門司 和彦; ORIAS Rivera; VARGASーPACHE ハ゜チエコ; 吉永 淳; 渡辺 知保; 佐々木 昭彦; 古知 新; 竹本 泰一郎; ORIAS Jose; VARGAS Enriq
     
    調査によって得られた資料(特に人口学的資料)および生体試料の多くは分析中であるが、主な分析結果は以下の様に要約される。 1.高地の牧畜村落における児童の身体発育は良好で、ボリビアの都市に居住する児童のそれに匹敵する。胸郭については同じような標高に居住するケチュア族の児童と比較して有意に小さい。低酸素分圧への適応として考えられていた大きな胸郭は、ケチュア族独特のものであり、アイマラ族に関しては必ずしもあてはまらない。 2.高地の乾燥地域では、生業はリャマ・アルパカ・羊の牧畜を主体としており、寒冷耐性品種のジャガイモをわずかに生産するのみである。一週間にわたる食物摂取調査では、エネルギ-、タンパク質など多くの栄養素の摂取量は充足していたが、カルシウムおよびビダミンAの摂取量が所要量を大幅に下回っていた。24時間心拍数の連続記録から推定したエネルギ-消費量の個人間変動は大きく、性・年齢により特別の偏りは確認できなかった。 3.アンデスなど高地に居住する人々は一般に低地(海抜レベル)に居住する人々に比較して血圧が低く、高血圧や冠状動脈疾患が少ないと理解されているが、調査資料を分析した結果、ボリビア・アンデスのアイマラ族の人々が低地居住者に比較して高血圧の有病率が低いという事実は確認できなかった。尿中排泄量から推定した、高地居住者のナトリウムおよびカリウムの摂取量は予想以上に高く、それぞれ低地居住者の2倍以上であった(高地居住者1日のナトリウム排泄量は260ミリモル、食塩15gに担当)。重回帰分析の結果、血圧は、年齢と上腕周径、居住地の標高(または、血中ヘモグロビン濃度)と有意な関連を示した。低酸素環境、ナトリウムおよびカリウムの高摂取量が血圧に対する影響を相殺している可能性があり、高地居住者のナトリウム、カリウムおよび他の無機質の生理的役割について詳細な検討を今後おこなう予定である。 4.セレンの栄養状態と血中グルタチオンパ-オキシダ-ゼ活性(GSHーPx)について、高地および低地居住者の比較分析を行った。血中セレン濃度は高地と低地居住者との間に有意差はなかった。しかし、赤血球中セレン濃度は低地居住者が高く、逆に血清中セレン濃度は高地居住者において高値を示した。血中GSHーPx活性については、ヘモグロビン1gあたり活性値は高地居住者において低値であったが、血液1mlあたり活性値では高地居住者が高値であった。高地での食物摂取調査によるセレン摂取量から高地居住者の全血中セレン濃度を推定すると、実測値は成人男性で47.7%、成人女性で42.5%高く、セレン依存の血中GSHーPx活性を高く保つため、血中セレン濃度を高く維持する機構がはたらいている可能性を示唆している。しかし、血中ヘモグロビン濃度が高いことにともなって増加すると考えられる活性酸素種除去に充分なGSHーPx活性が保持されているかどうかについてはさらに検討する予定である。 5.酸素の安定同位体( ^<18>O)および ^2Hによる標識水を投与した高地の対象者について、得られた尿サンプルをマス・スペクトロメ-タ-で測定し、算出した一日当たりのエネルギ-消費量(基礎代謝率の1.3ー2倍の範囲であった)は、ペル-・アンデスで観察や古典的酸素消費量測定によって推定された値より高く、個体間の変動も大きかった。限定された資源・生活資材を有効に利用するため、アンデスでは成人の多くは活動レベルが低い(つまり働かない)という通説はこの集団では当てはまらなかった。 6.キャッサバ(品種によってシアン配糖体の含有量が異なる)の利用をめぐって、栽培品種、摂取量、および味覚による識別能の調査を実施した。この地域の伝統的部族社会であるモセテン族と、高地からの移住者(ケチュア、アイマラ、チパヤ族)とを比較した時、モセテン族では苦い品種のキャッサバを栽培していないこと、味覚による品種の同定に誤りの少ないことが認められた。なお、移住者集団によって持込まれた一品種は、古くから栽培されている他の品種に比較してシアン化水素の含有量が高いことが分析によって明かとなった。高地においてもジャガイモについて同様の調査を実施しているが、作物に含まれる毒物除去の技術的方法、生体内での解毒、健康影響に関しては今後も検討する予定である。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1990年 -1990年 
    代表者 : 本郷 哲郎; 吉永 淳
     
    オセアニア地域での狩猟採集・焼畑農耕を生業とする人々(パプアニュ-ギニア、ギデラ族)の毛髪および彼らが食物として摂取している動植物の炭素・窒素安定同位体比から食性分析を行い、その結果とギデラ族について実際に行われた食物摂取調査結果とを比較した。昨年度までに同位体分析を行った試料(毛髪45検体、食物42検体)に、毛髪14検体、食物15検体の分析値をあらたに加えた。 1、毛髪の炭素・窒素同位体比(δ13C、δ15N)が村落により異なることを既に昨年度見いだしたが、本年度の結果は昨年度の知見をさらに補強するものであった。 2、技術的な問題から分析が困難であった植物性食物のδ15Nを5試料について測定した。その結果、試料により0.2〜8.9%_0と変動の幅が大きかった。 3、内陸の村(ウオニエ村)での食物摂取調査結果から推定される村人の毛髪同位体比と成人男子の毛髪同位体比の実測値とを比較すると、推定値よりも実測値が高いことを既に見いだした。これまで毛髪同位体比の推定値算出の際に植物性食物のδ15N値には仮の値(0%_0)を用いていたので、本年度の分析の結果えられた植物性食物のδ15N実測値を用いた計算しなおしたが、それでも毛髪の実測値の方が高い値となった。 4、内陸の村の成人について毛髪δ13C、δ15N値の男女差を検討した。その結果、男はδ13C=ー19.2、δ15N=8.9%_0(n=13)、女はδ13C=ー18.6、δ15N=7.8%_0(n=10)であり、δ15N値に有意な差があった。このことはこの村の男女で食物摂取パタ-ンが異なることを反映している可能性が考えられた。

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