戦間期フランスにおける「ヨーロッパ精神」と東洋―クローデルとヴァレリーを中心に
日本学術振興会:科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
研究期間 : 2019年04月 -2021年03月
代表者 : 上杉 未央
2019年5月に成城大学で行われた日本フランス語フランス文学会で口頭発表「ポール・クローデルのプロパガンダ講演旅行ー第一次世界大戦における愛国主義とカトリシスムをめぐって」を行った。同発表は、第一次世界大戦中のクローデルが行った連続の文学講演会を取り上げた。ライシテを掲げる第三共和政のフランスは、大戦において唱えられた「神聖同盟」の名のもとカトリック陣営との融和を図ったが、カトリック詩人クローデルによる文学講演は戦時下という非常時においてフランスのカトリック伝統を強調するものであった。国内と国外における講演内容の微妙な差異や、選ばれた自作の作品の位置づけを検討した。戦間期フランスにおける「ヨーロッパ精神」を掲げる本研究課題のひとつの柱であるカトリック性を正面から問題化することができた。同発表は、学会の聴取者による評価を経て、学会誌に向けた論文執筆を許可され、論文は査読ののち学会誌に掲載することが決定した。
もう一つの成果発表は、2020年6月に水声社より発行予定の『ポール・クローデルの日本』に掲載される予定の分担執筆の論文「宣教の庇護者、ポール・クローデル」である。これは、2018年11月に日仏会館で行われた国際シンポジウムでの講演原稿をもとに執筆されたもので、日本大使在任期間におけるクローデルと宣教師の関係を扱った。複数の宣教団体との関係や日本のカトリックの有力者との関係、宣教にまつわるさまざまな問題を検討した同発表は、シンポジウムにおいて通常の文学研究の発表会ではみられない宗教者からの質問を受けた。フランスの作家と東洋の関係という本研究課題が、個別の作家研究の枠を超えた意義を持ちうることを示唆している。