日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(B)
研究期間 : 2021年04月 -2024年03月
代表者 : 葉石 光一; 八島 猛; 大庭 重治; 池田 吉史; 浅田 晃佑
令和3年度は、知的・発達障害児・者を対象として予定されていた実験が実施できなかった。そのため、研究の進捗は遅れている状況である。ただ、必要な予備的実験を実施し、新型コロナウィルスの感染状況が改善されれば、実験の規模は縮小せざるを得ないものの、ある程度の遅れを回復することは可能である。また本年度は、知的障害児・者を対象としたジョイント・アクションの研究がほとんどないことから、知的障害児の学習活動におけるジョイント・アクションの効果を行動観察によって検討した。具体的には、知的障害を伴うダウン症児1名に対して9ヶ月間にわたって実施した書字学習支援での共同活動場面の再分析を行った。この学習支援の過程では、支援者が対象児に手紙を書き、それに対する返信を書いてもらうことを目標とする環境整備が行われた。ただこの支援は、対象児に対する個別の支援ではなく、同じく手紙をもらって返信を書く共行為者を存在させるようにしていた。その中で、対象児の書字行為は、周囲の様子を手がかりとしたものから、次第に自発的なものへと徐々に変化していった。また支援者からの手紙に対する返信を自発的に書くようになる中で、書こうとする内容をあらかじめ宣言して書く様子や、周囲の子どもの書字に見られた誤りを指摘し、正しい文字を教えてあげる様子などが見られた。これは知的障害児において課題とされるプランニング(書こうとする内容の宣言)や動機付けの問題を、共行為者がいる中でクリアするきっかけを掴んだと見られるものであった。一般に、知的障害児・者には、行動を自らプランニングし、調整する実行機能や、行動や自らの認知過程に対する信頼の低さからくる動機付けに課題があるとされる。本研究の結果は、共行為者が存在するジョイント・アクション事態が、知的障害児・者の認知・行動上の課題を克服する手立てとして有効である可能性を示唆していると考えられた。