日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
研究期間 : 2018年04月 -2021年03月
代表者 : 大塚 佳臣; 見島 伊織; 本城 慶多
本研究では、(1)流域全体での高度処理システムの最適化ならびに(2)高度処理がもたらす流域内自治体間の費用と便益の不均衡解消を同時に実現するための政策決定手法と、(3)政策に関する合意形成を実現できる手法を開発し、中川流域をモデルとして、それらを実践することを目的とし、2018年度は以下の成果を得た。
(1)高度処理システムの最適化の検討:埼玉県内にある下水処理場を対象とし、処理水質や、電力使用量などの運転管理データを入手し、既存モデルを基に申請者らが改良を加えた環境負荷算定モデルにそのデータをインプットし、環境負荷を経済価値で算定した。過去10年程度の間で環境負荷を比較したところ、環境負荷は概ねNH4-N>T-N>T-P>CODの順となった。近年においては、高度処理などの導入によりNH4-N由来の環境負荷が減少し、処理水全体の環境負荷が大きく減少していることが明らかになった。
(2)流域内自治体間の費用と便益の不均衡解消の手法の検討:協力ゲーム理論を水資源管理に応用した研究事例を整理するとともに、下水処理コストの地域間配分を計算するための数理モデル(下水処理ゲーム)を構築した。環境負荷算定モデルから得られる下水処理の便益をゲームに入力することで、各地域にとって合理的であり、かつ、パレート効率を満たすようなコスト配分を示す方法論を確立した。ゲームの解概念としてナッシュ交渉解、シャプレー値、仁を選定した。
(3)政策に関する合意形成を実現できる手法の検討:河川水質改善が水道水水質にもたらす便益の観点から、住民に提供すべき情報を抽出すべく、住民アンケート調査により水道水質の情報提供がもたらす水道水飲用の受容性を評価した。その結果、水道水の処理方法(煮沸、浄水器)やボトル水のリスクの観点のメリット・デメリット情報の提供は、デメリットの情報に強い影響を与えることが明らかになった。