日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 2023年04月 -2027年03月
代表者 : 黒岩 恵; 井坂 和一; 諏訪 裕一; 木庭 啓介
複数の基質が存在する条件での完全脱窒細菌(Alicycliphilus denitrificans strain I51およびAzospira sp. strain I13)のN2Oを含む中間生成物放出・除去フラックスの定量および基質毎のN2O転化率の算出を行った。炭素基質としてコハク酸、脱窒基質としてNO3-, NO2-, N2Oが共在する条件で、(1)N2O放出および除去速度, (2)放出N2Oにおける各基質の寄与率、を定量した。さらに、N2生成速度とその起源も定量し、(3)基質ごとのN2O転化率を評価した。この解析の結果、2種の脱窒細菌は特にN2生成に対する基質の選好性, NO2-放出速度, N2O放出速度について明らかに異なった傾向を示した。一方、放出N2Oは共通して主にNO2-に由来し、N2O転化率はNO2-でNO3-よりも7-21倍大きかった。このとき、NO2-のN2O転化率は、1.0-1.3%および32-85%と2種間で大きく異なった。この差は脱窒の逐次反応段階が連動して機能するか否かに起因すると推察され、今後活性測定と発現解析を同時に行う試験を実施することで検証する予定である。これらのN2Oを含む脱窒中間産物の動態解析結果は、N2OソースとしてのNO2-の重要性を強調しており、さらに、NO2-のN2O転化率は菌株により大きく異なりうることを示した。また、脱窒細菌がN2Oシンクとして機能するかソースとして機能するかは、存在するN2O以外の脱窒基質の種類や濃度に依存することがさらに強固にサポートされた。
一方、先行研究との整合性を検証するために、同一の材料について15Nトレーサーのみを用いたNO2-,N2O添加試験を行ったところ、NO2-がN2O生成・消費に与える影響は先行研究の報告と一致しなかった。この不整合については今後引き続き検証を行う。