昨年度に引き続き、資料・文献の収集を行い、それらの分析にあたっては、移民受け入れの政策や、デンマークが国家として目指す「統合」がどのようなものであるかに着目した。デンマークだけでなく、今年度は分析対象をヨーロッパ全体に広げ、中でも、移民受け入れの歴史が長く、また、香港を中心とする中国系移民の受け入れで実績を持つイギリスを比較・対照の対象に加えることとした。
9月にはデンマークに加え、ヨーロッパ内ではイギリス、さらにはすでに調査地盤を築いているカナダ・バンクーバーで調査を進めた。デンマークでは、コペンハーゲン大学やNordic Institute of Asian Studiesにおいて資料の提供を受けた。デンマークに中華街は存在しないと言われている点は訪問調査によっても実際に「街」の存在がないことを確認したが、中国系住民のコミュニティはすでに形成されており、調査時期には「中秋節」を祝う集いへの呼びかけチラシが、コペンハーゲン中央駅の裏に数店舗点在する中国系食品スーパーで配布されていた。さらには、コペンハーゲン中央駅から特急列車で約1時間強の距離にあるデンマーク第3の都市・オーデンセでは、市街地中心部で中国系住民の存在が確認できた。デンマーク政府は地方都市に移民の居住地を定めているが、オーデンセでの状況はこうした移民の居住地分散政策を実際に裏付けるものと言える。同じEU加盟国であっても、イギリス・ロンドン中心部に存在する中華街の場合には歴史の古さを示すだけでなく、今日もなお活況を呈している点で、コペンハーゲンとは非常に対照的である。イギリスと同じく(フランス語の使用が稀な点で)英語圏と言えるカナダ・バンクーバーは、カナダの国家政策が多文化主義であることから、ヨーロッパとは根本的に状況が異なる。今後はポイント制とシェンゲン協定に着目して一層考察を深めたい。
本科研グループが設立した「マルチリンガリズム研究会」などを通して、研究を進め、その成果を雑誌や国際学会で発表するとともに、その成果に基づいた「多言語同時学習支援」の国際シンポジウムや試行プログラムも実施し、「多言語併用環境における日本語の習得、教育、及び支援」に関する全体の研究実績を報告書にまとめた。
主な研究実績の概要は以下の通り。
1.幼児から成人までを対象に、(1)1人1言語・3.実際に試行的な「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援プログラム」を実施し、多言語併用環境での日本語の教育や支援、そのための日本語教員養成に関する基礎的なデータを得た。環境1言語仮説(2)思考言語と優越言語(3)言語環境の変化(4)品詞(5)言語選択(6)アイデンティティ(7)場所格(8)テンス・アスペクト等の観点から、タガログ語・英語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・中国語等の多言語併用環境における日本語習得の実態が解明された。(これらの主な成果は、スイスでの国際学会「The fourth International Conference on Third Language Acquisition and Multilingualism」のProceedings(CD-ROM版)として出版。)
2.国際シンポジウム「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援」をマルチリンガリズム研究会と日本語教員養成機関(大学院>とで共催し、3力国(+台湾)での多言語学習・習得の実態の報告を受け、多言語同時学習支援プログラムと多言語併用環境での日本語の教育や支援のできる日本語教員養成プログラムの研究・開発に着手できた。
3.実際に試行的な「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援プログラム」を実施し、多言語併用環境での日本語の教育や支援、そのための日本語教員養成に関する基礎的なデータを得た。
本年度の計画に基づき研究を進め、マルチリンガリズム研究会(http://jsl-server.li.ocha.ac.jp/multilinualism/index.html)(本科研のメンバーで設立)で、研究成果の一部を公表するとともに、主な研究成果をスイス・フリブールで開催の「The Fourth International Conference on Third Language Acquisition and Multilingualism」(http://www.irdp.ch/13/linkse.htm)で発表した。この国際学会では、本科研グループで、個別発表とともに「Multilingualism in Japan」というコロッキアを主宰し、日本社会における多言語習得の実態およびそこにおける課題に関する議論を展開した。研究の主なテーマは以下の通りである。
1.中国語・韓国語・日本語話者によるコードスイッチングとターンテイキング
2.中国語・韓国語話者による第三言語としての日本語の習得
3.One Person-One Language and One environment-One Language仮説検証
4.韓国語・日本語・英語話者における言語転移
5.マルチリンガル児童のアイデンティティの発達
6.多言語話者による言語管理
7.環境の違いが多言語能力へ与える影響
このような多角的な観点からの研究によって、日本社会における多言語習得の実態の解明に迫った。本研究の成果は報告書にまとめられる予定である。
Effects of Language Policy on the Ethnic Chinese
Grant-in-Aid for Promotion of Private Scientific Research
研究期間 : 2003年 -2005年
言語政策が華僑・華人の言語使用に及ぼす影響について
民間学術研究振興費補助金
研究期間 : 2003年 -2005年
A Development and Use of Chinese Teaching Materials for CALL