日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
研究期間 : 2020年04月 -2023年03月
代表者 : 北澤 俊之; 三澤 一実; 榎本 淳子
2021年度はこれまでの先行研究の整理をふまえ、大学生を対象とした予備的調査を実施した。概要としては、見慣れた対象を再度異なる造形的な視点でとらえ直す方策としての「言葉」に着目し、言葉がもつ力や、それらが新たな概念化を促す実際について調査・考察を行うというものであった。研究者はこれまで身近な事物を改めて造形的な視点からとらえ直すための造形教育プログラムを構想してきた。ここでいう造形的な視点とは、一般的に形・色・テクスチュアなどをとらえる視点を指すが、これまでの研究では、形や色に比してテクスチュアやコンポジションに関わるプログラムが十分に開発できていなかった。この課題を受け、身近な事物のテクスチュアやコンポジションを写真に収める「自作アートカード」の可能性を検討してきた。その過程で得られた知見の一つに、対象の新たな範疇化を促す契機となる言葉のはたらきがあった。そこで今回の予備調査では、自作アートカードをグループ化(範疇化)する際に見られる言葉に焦点を当てて分析した。事物の一般的な呼称に始まり、事物の形や色、さらにはテクスチュアやコンポジションといった造形的な属性へと視点(注意)が移行する際に表れる言葉を捉えることで、プログラムをデザインする際の有効な手立てを得たいと考えた。
調査の結果、オノマトペのような感覚を刺激する言葉を学習者に意識させることによって、事物のもつテクスチュアコやンポジションに対する注意を高めることができることが明らかになった。 知覚と言葉との関連については、認知心理学や認知言語学の分野では自明の知見ではあるが、改めてそれを造形教育につなぐことができたことはささやかながら一つの成果であったといえる。そして言葉が造形的な視点による事物の「とらえ直し」を促すというここでの成果は、今後子どもの発達との関連を考える上で、非常に重要な視点となると思われる。