日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 1993年 -1993年
代表者 : 塩川 徹也; 朝比奈 美知子; 塚本 昌則; 中地 義和; 月村 辰雄; 田村 毅
単年度の科学研究費補助金による研究として,時間的な制約から,特に,イデオロギーと近接する広い意味においてとらえられたレトリックが,各時代のフランス文学の実践的な活動にいかなる役割を占め,いかなる影響をおよぼしたのか,という点に焦点をあてて研究が進められた。その結果,各研究分担者がそれぞれ専門とする領域の範囲の中で基礎的な調査をおこない,いくつかの見るべき成果を収めた。たとえば14世紀後半,ごく初期のユマニスム・レトリック教育を受けた世俗ユマニストが教会聖職者との文学論争に臨み,引用文の取り扱いをめぐってテクスト尊重の方向性を打ち出している事実の指摘などは,その好例である。つまり,この指摘によって,古典修辞学教育の成果が単に文章表現のレベルにとどまらず,それを越えたテクスト自体の取り扱いという,文学の実践にとっての基盤となるレベルにも及ぼされていることが確められるからである。
また,16世紀から19世紀にいたる古典修辞学教科書の文献調査と資料蒐集が,研究分担者間の緊密な連絡のもとに組織的に進められた。さらに,特に,18,19世紀の修辞学教科書の内容の比較研究が進められ,その成果は研究成果報告書にまとめられているが,あらためて同時代のフランス文学作品とのつながりの深さが認められた。なお,この報告書には,19世紀中葉の修辞学教科書のきわめて詳細な書誌が付されている。