日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(B)
研究期間 : 2003年 -2005年
代表者 : 岩田 正美; 中谷 陽明; 濱本 知寿香; 黒岩 亮子; 川原 恵子
1.研究の目的と方法
住宅所有とその変動を中心に女性の生活基盤の安定性を明らかにし、福祉政策の課題を検討する。
向老期と高齢期の女性に対する2種類の量的調査、福祉施設利用者のインタビュー調査、若年女性のパネルデータの再分析の4つの異なった調査を実施した。また比較のため英国の女性と住宅についてのレビューをブリストル大学へ委託した。
2.研究結果
(1)全国の54〜64歳までの女性に対するアンケート調査(05年11〜12月実施)および世田谷区における65歳以上の高齢者に対するアンケート調査(05年2〜3月実施)から、女性の住宅所有構造を、持家(名義なし)持家(名義有り)、親族の家、借家の4つに分類し、これらが女性自身の他の資産と強く関連し、また婚姻歴,学歴、就業状態などで変化することを明らかにした。女性名義持家は2割で、持家居住は依然夫や親に依拠している。一貫借家居住層、子ども名義持家居住層、離婚経験層等に生活基盤の不安定が見られた。
(2)「消費生活に関するパネル調査」の1993〜2004年調査データで、「母子世帯前年」と「母子世帯1年目」をたどれる母子世帯の住宅ダイナミックスを分析した。母子世帯になることによって、約半数が住宅移動を経験しているが、同一都道府県内移動が多い。親と同居しない母子世帯は貧困率が高いこと等が明らかとなった。
(3)福祉施設の利用者17ケースのインタビューをもとに、住宅移動、地域移動を分析すると、家族の暴力からの逃避、借金取り立て・家賃滞納、路上生活、その他の4つの類型に分類できた。施設を利用しても、普通住宅に転出していく道が閉ざされている利用者が多いことが課題として摘出された。
(4)英国では持家政策を背景に女性名義持家取得が高まっている。だが、女性も過大なローンを負っていること、持家を持てない層の社会的価値が低められる等の問題がある。