増田 正人; 中林 靖; 矢川 元基
日本計算工学会論文集 2013年
近年のスポーツは技術の発展が目覚ましく, スポーツ工学やスポーツ科学を取り入れたトレーニング方法も発達している. 中でも, サッカーはその人気や技術の向上にともなって, 様々な角度から工学的・科学的な研究がなされてきている. 2003年9月に日本フットボール学会が発足し, トレーニング, コーチング, ゲーム分析, スポーツ社会学, スポーツ心理学, スポーツ医学バイオメカニクスなどの分野でサッカーは研究されている. また, RoboCupというロボット工学と人工知能の融合を目指し, 自律移動型ロボットにサッカーを競わせる大会もある. このようにサッカーは既に様々な形態で学術研究の対象となっている. 物理学的な観点からは, サッカーボールと空気との間で起こる物理現象は極めて複雑であり, フリーキックからの得点を科学的に解析する試みがなされている. フリーキックは試合において得点のチャンスを広げる重要な要素であるが, 実際のフリーキックでは選手の経験や感覚, 勘によりボールを蹴りゴールを狙うことになる.
本研究ではサッカーの直接フリーキックにおいて, ボールが直接ゴールに入る確率を上げ, キーパーに捕球されにくいコースにボールを蹴るための情報を算出するシステムの開発を行う. このシステムをフリーキックサポートシステムと呼称する. このシステムにより選手の経験, 感覚に頼っていた技術を誰でも分かる情報に落とし,実戦の場や練習の補助に当てることができ, フリーキックの精度・確度の向上に役立つシステムになると推測される. もちろん, ゴール隅に直接入る蹴りだし角度や速度, 回転の値を正確に求められたからといって, キッカーがその値通りに蹴ることが困難である。しかしながら, 予め選手のキックの特性データを調べておき, 求めた数値の感度解析結果と合わせて用いることにより, あるシチュエーションで誰が蹴れば直接ゴールを割る確率が上がるかといった実戦的な応用も考えられる.
ここで提案するフリーキックサポートシステムは, 実際のフリーキックを順問題とおいたときにその逆問題を解くものと位置づけられる. つまり, 通常は任意の場所でフリーキックのチャンスを得たときに, キッカーがボールを蹴り出し, 狙った箇所にゴールするといった流れであるのに対し, 任意の場所から狙った箇所にゴールさせるためには何処にどのように蹴り出せば良いかという逆問題を解くことである. 本論文ではこの逆問題をニューラルネットワークと自己組織化マップ(Self-Organizing Map : SOM)を組み合わせたモジューラネットワーク型SOM(mnSOM)を用いて解き, ゴール効率の精度検証と有用性を示すことを目標にし, これまでに十分に議論されていないmnSOMのマップの定量的な評価方法を提案し, フリーキックサポートシステムへ適応させる.